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酒の井戸

アルコールの海に溺れながら考える世界のいろいろな出来事。または箱庭的な自分のこと。

入院顛末記3

そう言えば怪我の写真なんかも幾枚か撮ったのですが、まあ、ああいう画像は人を選びます故ここには載せませんが、酒の酒菜にグロ画像でもなんてぇお方がいらっしゃれば、仰ってください。まあ、グロイったって人体ですからね。普段生きてこうやって生活してりゃあ見えないもんですが、しかしそれを使って生きているわけでして、

別段取るに足らない当たり前の物と言ってしまえば、それまでなんですが。

 

 ってわけで、前回の続きと参りましょう。

 

ytugatakewo.hatenadiary.com

 

 1

 

 えーそいで。熟女の看護師に促されるまま横たわったベッドというのが、いかにもいかにもな、例えばドラマや映画なんかで見る本式の・・上にこう照明がピカッと照らされて執刀医が「メス」だのなんだのと助手に指示を出すなんて塩梅の・・いいや、前回も書きましたが、あたしゃこの段階では入院とかそんな大ごとには考えてませんでしたからね。椅子から投げ出した足を先生がちょいちょいと縫って、それを見ながらあたしゃ「ちょいと、先生いてーよ。手加減してくださいな」なんて軽口をたたきつつ・・みたいな算段を想像していたが故、こう本式の手術台に寝転んで、なんと申しましょうかな、こいつぁちょいと大事になってきたなと心内患者としての臨場感が増すと申しましょうか、暗雲立ち込める思いで。

 

 そこに現れたるは年の頃なら二十五ほどの、背丈は170か総体やせ形・たれ目のひょーろくだまで御座います。白衣を着て。

 熟女は看護師であり執刀することは無い。となると、あたしの担当医はこいつかと上から下へ、また下から上へその男のなり姿を見れば見るほど頼りない。いかにも宙に浮かんだ風船が秋風に吹かれて右へ左へといった様相で其処へ佇み、愛想笑いというよりはもうそうにする他ならないと口元を歪めているだけといった形ばかりの笑みを浮かべてこちらを見ているのですが、それでそれ以外何もしようとはしない。

 

 一瞬ダイジョブカイこいつは?・・と。

 いやダイジョブカイ俺の右足は・・・

 

 とも思いましたが。

 

 しっかし、翻って考えるに物事を先入観で測るという行為は、人として生きる上で最上の愚の愚である。いわんや医術、外科医的力量を計るうえでその見てくれ態度などが、どれ程のものであろうモノか。

 ジッサイ若年なれど緊急外来の担当医とこう一人立派に任されていると言う事も考慮してみれば、案外名医かも知れん。それをこっちが素人故の浅い判断で悪戯に不安がるというのは不毛である。不毛であるどころか害悪である。害悪と言っておおよそ想像がつくのがオバハンで。例えばとある外科手術の折「本日の担当医です」と、ひょーろく先生が挨拶に現れたとその刹那おばはん担当医の風貌からすべてを察したが如く「あれー大丈夫かいこんな頼りない若いセンセで、あたしゃもう困っちゃうじゃん。別の方いないの?」などとイチイチ正鵠を得ないクレームが多発したが故、院長から「君は腕はいいんだが、いかんせん見てくれがひょーろくが故になぁ」なんて評価を下されて、挙句「まあ、替えのきかない緊急外来でその腕を存分に発揮してよ」などと不毛かつ所謂日本式のなーなー主義の谷間に落ちた被害者であり、故に先生としても患者とのコミニュケーションに不安を抱えている。が、ジッサイ執刀の腕の所は最上級のゴッドハンドである。

 

 と仮に考えてみると、もぅこれはこの先生の事を大上段から受け入れるしかない。医術は仁術だというけれど、患者には患者なりの仁術がある。腕は確かながら風貌その他で損してコンプレックスを積み上げたゴッドハンドへ、再度己の力量をそのキャリアへ生かすきっかけになればと思い、先生っ先生とそのヒョーロク先生を的にし如何にも先生へのリスペクト、帰依、五体投地と質問を繰り返したのでごっざいます。

 

「せんせ、これはナンですかな」

 

「せんせ、やはりいけないのでしょうか」

 

「せんせ、どうですかな」

 

  いやはや、我ながらあからさまな媚びぶりである。

 しかし、件ひょーろくだまはアタシの投げかけにあいまいな笑みを浮かべたまま、依然風に吹かれて漂う風船玉の如く、フラフラとそこに佇むばかりではあーりませんか。

 

 

 

 

 とそんな事をしているうちに、ふらっと現れた男は五十に手が届くと言った風貌の・・・と同時にアタシは察しましたね。そして悟りました。自分の愚を。

 この御方こそが、まごう間違いなくシャッチョサンでありセンセであり当緊急外来の担当医であり、あたしの主治医であらせられるお方であり、ひょーろくだまは所詮ひょーろくだまであったのだと。

 

そいでその先生。こう手術台にカエルの青っ腹の如き仰向けに寝るあたしを眺めて、一度傷口を凝視しますと

 

 「まあ、其処じゃなんですから。こっちでやりましょうか」

 

 と、申すのであります。

 

 そいで導かれたのが、先の本式ベッドに比べると、如何にもお子ちゃまな。いや折角、こう中空に浮く術用照明なんぞを仰いでいよいよ患者としてのテンションを・・・いかにも演劇式、劇場型に、テレビどらものワンシーンかの如く盛り上げておったのに、次に寝かされたのがお子ちゃまベッドの、中空に浮くのは照明では無しにねんねこガラガラの・・いやはや、あたしの先まで心がけて高めた患者としての役作りはどーんなんだという心境で、不貞腐れながらそこに寝ました。

 

 先生曰く、「こっちのほうがやりやすいですから」

 

 とな。

入院顛末記②

 さあ、さてそれからは。

 

 って。

 

先だっての入院顛末記の続きで御座います。

  

ytugatakewo.hatenadiary.com

 

 

 まああたしゃ日頃から、こう鈍感で御座いましてな。その日もふくらはぎが欠けていて、それで一向に痛みを覚えないので御座いますよ。しっかし、痛みは無いながら右と左を比べてみてもやはり、どう見比べても右が足りないなと。ええ確実に欠けている。そいで座っている下は血染めの布団と相成りますでしょ。まあこいつぁただ事ではないなと、流石のあたしでも気が付くわけで御座いまして、部屋を出て、ちょうど両親が横並びでテレビを見ておりましたから、ズボンをまくり上げまして、「足が欠けた」と見せると、母親の顔の血の気がさっと引きまして、すぐに病院へと近くの総合病院へ電話を掛けました。

 

 時刻は十四時を回って、当然外来の受付はもう終わっております。急患でと聞くと幸い形成外科の先生が当直でいると。「直ぐに参ります」と電話を切って、あたしゃ別に痛みもないし、普通にすたすたと歩いていたもんだから、自分で車を運転して行こうかと思ったのですが、母曰くそんな足でまともに運転なんぞ出来ようはずがないと、

その上さらに事故なんぞ起こそうものなら目も当てられんと、そう主張して曲げないものですから、ではお願いしますと助手席へ乗りました。

 

 あたしゃね、正直この段階ではこんなにも大げさな事になるとは、ゆめゆめ、思いもしませんでしたな。ちょいと縫うだろうなとは思いました。ちょいと縫って繕って、でっかい絆創膏かなんかを張って、包帯をグルグル巻きにしてそいで無罪放免、今日は休みだから一日寝て、明日も仕事は夜勤だからまあ正味一日半。それだけ休めれば何とか仕事にはなるだろうと、生来の鈍感さと、生来の勤勉さ故の・・あいや勤勉さってことは無いか。面倒くさいんですな。仕事に穴をあけてイチイチ断りだの謝りだのと、そういった社会的儀式諸々が。だから仕事はなるたけ休みたくない。休んだらそりゃ休んだ時は楽だけど、後で後がつっかえて、いちいち面倒じゃぁあーりませんか。

 

 2

 

 病院に着いて、車から降りて変わらず、すたすたと歩きます。人のいない受付で呼び鈴を鳴らして、出てきた看護師に「あのー足を怪我してしまったんですけど」と、いつもの口調いつものテンションでのんべんと語ると、「あ、先ほどの電話の・・・」と、それで合点理解が速く、「向こうの角を曲がったところが救急外来ですので・・」と案内され言われた部屋の前でしばらく待ったのですが、誰も出てくる気配がない。ので、ややあってその部屋のドアをノックして、恐る恐る扉をあけまして、「あのー」と顔を覗き込むと、出てきたのは肉(しし)付の良い五十を僅かに越えたであろう熟女で御座いまして、いや若い時分は男の一人や二人を惑わしても、それが到底罪とはならんかったであろうかという・・・二重の目にくっきりと鼻筋の整った・・・そんな面影を残した看護師で。

 あたしはそんな女の肉(しし)を見ながら、上同じような口上を再度。

 

 「あのー、足を怪我してしまったんですけど」

 

 あたしのノリというかテンションというか、まあ常に熱の欠けた物言いが故でありましょうか、別になんてこっちゃないといった印象を与えたか、くだん熟女は「あらまあ」みたいなノリで「さあ、どこがいけないのさ」みたいな感じで、あたしを待合室の椅子に座らせてズボンを捲くれと指図します。

 

患部を見せろと。

 

そいでまあ、あたしも言われるがまま、熟女の望むがまま。ズボンの裾をまくりあげて、患部を見せますってーと。

 

さっと、熟女の顔が変わりましたな。熟女が看護師になった瞬間であります。

 

 待合室から診察室へ。このベッドへすぐに横になれと言われて、言われるがまま横になりました。

入院顛末記

 

  えー先だっては、カカァがお台所に残すメモ書き、走り書きの如き性急な。

 

 「一週間ほど入院します」

 

 なんてぇのはしっかし実際。

 

 用件のみが伝わって、んで結局肝心要なところはなんのこっちゃわからん・・といった塩梅の更新で御座いましたが・・それから五日ですか。おかげさまで一昨日無事退院いたしまして。方々色々な方から温かいお言葉を頂いたり、心の淵わずかながらでも、こう気に留めて頂けたことが非常にありがたく。夜六人部屋の病室で、僅かカーテン一枚に仕切られたあたしのベッドから漏れる感涙が故のすすり音、泣き音を聞きつけた向かいのハチ公こと清水八之助何某なるソコツ者があたしの病状をよっぽど悪いと勘違いしたか、始終他の患者さんより何故か三倍マシに丁寧親切で、これがアタシとしては妙に心地悪い・・といった塩梅の日々でございました。

 

 2

 

 さて、と。

 

 えーそいで、では肝心の「なぜ、何ゆえに、どうあって入院したか?」と言う事でありますが。

 

 「酔うたが故の千鳥足で、足を踏み外して斜面を数十メートル滑落した」

 

 という、全く、ホントに馬鹿馬鹿しい理由であります故な。まったく、心配して頂くのがまっごと心苦しかったです。

 

 3

 

 うちの近所てか、あたしが子供の頃から歩き慣れてる(通学路にもしていた)道ってのが、いわゆる山道で。これが舗装もされていない・・・当然蛍光灯だのと言った人工光の類など無い代物なのであります。 そこを、まあ言っても歩きなれてる道ですから、よいよいと夜の朧な月明りと己の慣れた感を頼りに歩いておったら、どこかで目算を誤ったんでしょうな。ざっと先に出した右に踏む場所が無く。そこから、いやその下は地獄の淵の底の底。一気に体全体で転げ落ちました。何メートルくらい落ちたんでしょうかな。ちょいと分かりませんが。どこかで靴を無くしました。一番下に落ち着いて、五体の痛みに嘆きながら脱力して。そいで、もうその場で寝てしまえばいいとも思ったのですが、十二月の山は酷く冷たく、「ここで寝たらまず死ぬな」と、思ったので。

 

 靴を探そうと言っても、探せるはずがありません。あたしの履いていたドクターマーチンは黒塗りで、もうここは山の奥の奥。月光も届かぬ淵のそのさらに淵。仕方なしに裸足のまま両手と両足四肢を使って、獣か畜生の様に身をやつしてもその山の斜面を這い上がり、そいで何とか道にたどり着き、そこをまたふらふら行脚で辿ります。裸足に落ち枝や石がまあ痛く。もう何と言うか、我が身の業の深さが身に染みるという。俺はなんでこんな事やってるんだろ?なんて、前世からの業、己の因果を恨めしく考えたりもするんですが、まさに因果なんですよね。

 

酔った(因)

 

こけた(果)

 

飲みすぎたが故に千鳥足が故にコケタが故に滑ったが故に靴がなくなったが故に裸足が故に足が痛い。

 

 

 前世とかかんけーない。全部今世でせつめーがつく。

 

 

 まったく馬鹿馬鹿しい。

 

 

 

と、まあそんなんで家に帰りました。

 

転落して、足が痛いなーくらいのノリで、それよりも裸足で帰った足裏のが痛いよって布団にもぐって、やあ寝て。そいで起きて、まあ午後十三時半ぐらいか。見てびっくり。布団が血まみれじゃあーりませんか。世の狂気と言って数多と有れど、血まみれの布団を実際こう目にするってのは、なかなかありませんやね。

 

 と、いうかね。起きたら、なんかぬめっとしたんだよね。んで、なんだこれ?と思ったら、布団の血だまり。たぶん寝てから六時間くらいだったから、まだ乾かなかったのか。なんだこれ?と思いながら、朧げに昨夜の記憶をたどって、ああ、どっかに落ちたなーとか思いながら、右のふくらはぎを見ると、ふくらはぎが無かった。

 

 

と。

 

 

「あ、欠けてる」