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酒の井戸

アルコールの海に溺れながら考える世界のいろいろな出来事。または箱庭的な自分のこと。

ミャンマー料理を食べた お上りさんケンブン禄④

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ミャンマーの町らしいです 

写真素材 足成:ミャンマー

より

 

 1

 

 世界が狭くなったと、どんなに言われても―時間を金で買う時代―東京ミャンマー間4497キロををひとっ跳びで移動するために費やす金額を稼ぎ出すために必要な時間は一体どれくらいなのだろうかと考えると―しみったれブルース。世界はまだまだ遠いなと思う。

 

 旅人のようにさすらって自由気ままに生きたいなんて、人はたまに思うけど、今はさ・・だから、そういうシステムだから、かえって旅人のほうが―だって「職業旅人」なんて気取って言うけどさ、そんなバックパッカーなんて別に珍しくないし。ライターです海外での経験談を書くんですってヒトコト言っても、それって特殊技能で売るにしてはありふれ過ぎてて、もう、あんま需要もそうなさそうだから・・・いや実際、「職業旅人」のほうが、旅費を稼ぐためのバイトの時給換算とか、わずかな金も拾ってゆくみたいな姿勢においては、彼らのほうがまったく自由がなさそうだね。

 

 

 なんてことを思ってしまう僕らが、エスニカルに異国情緒を味わうために選んだこのミャンマー料理店は、真ん中にどでーんとテレビが置いてあって、昼過ぎなんです・・ヒルナンデスと、煩いくらいにやんややんやとこの日本国で流行る!!・・今もっともナウい・・ヤングの!!

 

 ・・・巷の情報を垂れ流していた。

 

 「テレビって、いつでも土足だよね」

 

 とPa

 

 「そう入り込んでくる。」

 

 「だからテレビって嫌いなんだ」

 

 「・・・情報が無差別だから」

 

 「うん」

 

 「うん」

 

 

 テレビジョンは降りやまぬ雨を僕らにもたらす。

 

 ざーざーざー。

 

 けたたましいノイズにずぶ濡れになっても、水かさは呼吸困難一歩手前のところで塩梅を見極める仕組みになっているのだろうか。

 

 

・・スイッチを切っちまえばいいじゃんかと言ったところで、僕らに選択権はない。町はいつもテレビジョンに依存しているから。居酒屋ラーメン屋・・どこもかしこも。

 

 

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 料理が届くと、ブログを書いている人間としての心構えにかけている僕は、夜勤明け朝から何も食べていないことも手伝って、反射的に手を伸ばしてしまう。

 

 メニューに

 

 「牛もも肉&ジャガイモのトマト煮込み」

 

と、書かれているそれは、カレーのようなスパイシーな刺激はないが、エキゾチックな味わい。カレーとシチューの相の子といったような。

 

 三口ほど食べて「あ、写真撮るの忘れた」と、独り言のように呟くと「もう手遅れだ」とpa

 

 pa

 

 「モヒンガー(そうめん&玉葱、レモングラス、魚スープ)(ミニチキン煮込み付き)」

 

を、食べている。

 

「一口ちょうだい」と言いかけて、「うっ」っと言葉を詰まらせてしまった。たまごが乗っている。

 

「どうした?」

 

「たまごが乗ってる」

 

「そりゃそうだよ。メニューにものってたじゃん」

 

「・・よく見てなかった」

 

「たまごダメだったっけ?・・アレルギー?」

 

「普段はアレルギーって言ったほうが角が立たないからそういう事にしてるけど、ホントはマズいから嫌いなだけ。」

 

「・・じゃあ、ほら(たまごを)とってあげるから・・・これで食べなよ」

 

 paがたまごを別皿にとりわけ、それから僕にまた勧めてくれたが、僕は一度たまごのウイルス(・・?)に侵されたその器内の食材に手を伸ばすことを一瞬躊躇してしまう。でも、こんなの、いいオッサンがまるで子供みたいじゃないか!!・・と、無理に自分を鼓舞って恐る恐るそのモヒガーとやらの、そのそうめん部分を僅かに手繰り上げ、ちゅるちゅるやると・・・うーん、そうめん。

 

 「どう?」

 

 と、聞くpa

 

 「いやぁ、不思議なもんで違和感がこう口の中に残るのですよ。そうめんてのはナンデスな。あたしら日本人が平静食うってなりますと、こう暑い日で食欲もわかねえしって・・まあ何かさっぱりしたもの。仕方ねえそうめんでも食うかって。だし汁に麺をさらってツルッと大して噛まずに呑み込んじまう。それで腹が膨れるってそんな塩梅でございましょ?そうめんてのはハナっからそういうもんだと、舌がもう覚えておりますからな。

 

 しかし今しがた口に入れたそうめんと来たら・・ナンデスかな舌が驚きますな。いかにも複雑な味があるじゃぁあーりませんか。そうめんなのにそうめんじゃない?!・・これを噛んで良いやら悪いやらと、口が悩みますな。噛めませんな。しかし飲めもしませんな。・・・いやぁ異文化に触れるとはたまさか!!こういうことですなぁ。カンラカラ(笑い声)」

 

と、答えてそれから二人は、三軒隣のあまり付き合いのなかったご近所さんの通夜のような、どうふるまったらいいかわからない空気の中で、やたら咳ばらいをしながら、しばらく無言で食事をした。

 

 

 

 やがて唐突にpaが口を開く。

 

ミャンマーってイスラム教だっけ?」

 

「いや、仏教国だよ。なんで?」

 

「なんか、あの絵の建物が、ムスリムの寺院みたいだから」

 

 

 paが指さした絵は僕の後ろにあった。振り返るとなるほど、モスクのあの独特のソフトクリームのような屋根の寺院が並んだ絵が壁にかけてあった。その隣には、いかにも上座部っぽい金ぴかの釈尊

 

 「よくわからないな」

 

 と、僕はそれにぞんざいな返事で返して、それから、ビールをまたウェイターに頼んだ。

 

.

 4

 

 ミャンマービールは軽い。だから、水みたいに飲み干せてしまう。空になったグラスにまたレモン色の液体を注ぐ。

 

 「そういえばさ、最近、昔読めなかった本が読めるようになってきた」

 

 と、僕が言うとpaが、最近なに読んだ?と聞いてきた。

 

 「ボウルズの『雨は降るがままにせよ』」

 

 「バロウズ?・・『死をポケットに入れて』?」

 

 「ちがうちがう。ポールボウルズ」

 

 「読んだことない。どんなの?」

 

 「外国に行った青年が、異文化と折り合いが合わないでこまったこまったって」

 

 「ふーん。」

 

 「印象に残っているのが『あなたって、いろいろなたくさん経験するチャンスを失ってきたのね、そうでしょ?』って、くだり」

 

 「ふーん」

 

 「ま、退屈さの味わいを覚えたというかね」