コトバ 風物 ジッタイ

ゲンショウの海に溺れながら考える世界のいろいろな出来事。または箱庭的な自分のこと。

深い秋がいつから始まるのかよくわからない

   

  さて皆々様。秋と言ってようやく、山に朱や黄と色に賑わいを見せ始めた時分で御座いますが、それでももまだまだ言って浅く。色づき始めたといった塩梅で。

 しっかし放っておきますと、こうたちどころに冬は襲い掛かってくるものですから、「ああ、秋深し」と言って一体何時にそういった感慨を・・まあ、嘆息と言いましょうか・・ナンツウカまあそんな感じの事を、自然に囲まれて暮らしております故、そんな感じの事をしみじみと漏らしてみたいと、常々思っているのですが、いまだにタイミングがよーつかめない。繰り返しますが、冬は全く、あっという間に訪れるものですからね。

 

 それでも犬の散歩なんて目的もなく、ただ飼い犬の意志に任せるままに。紐の引かれるまま惚けたまま。へッドホンから流れる音楽を聞きながら彷徨っておりますと、田んぼの畔にススキが一面ふっくらと白く風に揺られているのなんぞは、まあ、随分と秋という風情を感じるのであります。

 

 それで、

 

 「いっちゃうか?そろそろ秋深しのしみじみ嘆息いっちゃうか?」

 

 とか、思い迷うのですが、そんな時に限って見上げてみると、ちょうど手前の葉が・・あの、あたくし植物には大変暗ろう御座います故、名前は存じ上げないんですが・・目の前の木がチョーど、こう緑か朱にメタモルホーゼしている途中と申しますか、めいめい葉っぱが朱かったり緑だったり微妙なんですよね。

 

 なんか秋深しって・・もうちょいっと行けんじゃね?

 なんて・・。

 

 さながらチキンレースがごとき様相。もう少し、もう少し踏み込めるよ・・みたいなね。

 

 それでなんか立ち止まって。うーむとか思ってしまうのであります。

 

 アキアカネ・・俗に赤とんぼともうしましょ。あれはもう最近ではあまり見ないなんて聞きますけれど、あたしの家の周りでは、まだ、珍しいと言うほどではありません。方々を飛び舞っているのであります。それで件、風になびく白いすすき野の・・とくりゃぁむこう山に鮮やかに染まるべにくれないの紅葉と、とんとんと話が進めば、あたしも迷いなく「ああ、秋深だな」なんて嘆息を漏らして、それを酒菜に酒の一杯でもひっかけたくなるてぇ段取りがつくてぇ話で御座いますが、今一つ山のほうが、こうパリッと染まりません。

 

 

 でも、なんつうか・・。

 見てしまいますな。犬の手綱を引き返して、微妙な木を見てしまう。

 

 何なんだこいつは?と。

 

 あのーあたくしは、昔っからどんくさい人間で。例えば体育の授業着替えね、そー言うのにイチイチ送れるような人種だった故にね・・と。

 ほら、例えばですけど体育の先生がイチイチそうやって、どんくさい生徒をせっつきますでしょ。まあ、わかりやすい例として。

 

 「お前ら、何たらたらやってんだ。おい、あと十秒以内な、それで着替えれんかったら、っ今日のドッヂボールは無し。みんなで校庭マラソン・・10・・9・・8・・」

 

とか、そんな事を嫌というほど体験しておりますが故に・・いやぁ、言えませんよねぇ。

 

 こんな事は。

 

 「おい、木。紅になれん奴、何やってんだ。おい、お前だよ。ちょっとお前、前に来い。・・お前がチンタラ青く瑞々しいせいで秋がまったく秋じゃねえじゃないか。いつまでも夏引きずってんじゃねえよ・・・良いかお前のせいで、お前の瑞々しさで全体が秋になれねえんだ。寂びれねえんだよ・・わかってんのか?お前だけじゃない。此処に居る全っ員が秋になれねえんだ。全員が生命力捨て去ろうとして一生懸命一年間頑張って、成長して、今がその集大成だよ。生命力僅かな綺麗な枯れた色になって見事な有終の美、鮮やかな紅葉を決めようかって時に、なんでお前いまだ、生き生きと青いんだよ?・・先生確認したよな?八月末から朱と黄にそれぞれパートを決めて、九月に準備して、ススキ組さんとか、トンボ組さんとかと連携練習して十月末から一山で見事な紅葉を死に物狂いで魅せようじゃねえかって。死に物狂いで父兄さんに精一杯の枯れる前魅せるようじゃねえかって。

 

 ミンナあの時頷いたよな?・・お前も、頷いたよな。熱く「おいっす」って・・返事までしてなんで、それでお前だけ未だに緑なんだよ。・・「やるっす」とか・・簡単に熱く言うなよ・・・はあ・・あーまあ・・いいよ。仕方ない。もうこうなっちゃったら仕方ない。お前だけの責任だとも、先生は言わない。天候とか、雨がとか気温とか有ったしな・・・

 

(振り返って)

 

 それで、あと!!お前ら、木々。林、森!!・こいつが一人で怒られてるとき、お前らは俺じゃなかった良かったみたいな顔してたけど、俺はこいつだけじゃない。お前ら全員に怒ってるんだ。お前らさあ、ちゃんと朱く染まれた奴居たか?黄色く染まれた奴いたか?・・中途半端じゃなく心から朱く心から黄に。・・ないよねえ・・お前らほとんどが中途半端な色味だったじゃねぇか。・・何やってたの?あのさーだから、何度も言ってきたよね、夏になったころから。もうずーっと。・・なんで出来ないの?ちゃんとできた木なんて一本もないじゃん。

 

 ・・お前ら全員ダメだったんだよ。お前ら全員、こいつ笑えないよ?お前ら全員がダメだったから、こいつが緑から朱になるタイミング失ったともいえるしね。お前らのせいだよ?ほら、先生いつも言ってるじゃん。「一人がみんなのために。みんなが一人のために」って・・まあ、今回は仕方ないよ。でも先生はクラスがちゃんと団結して連携を取れていれば、もっとうまくいったと思うんだ。だからその辺は反省して、次に続けよう」

 

 いや、だから。

 件の例をもってしかる僕に、そんなことは到底言えやしないんだけれど。

 

 でも見てしまう。一体秋深しとはいついつになったら、そうなるのであろうかと見てしまう。遅れた葉っぱの緑組・・君たちが朱く染まるころ、その頃に秋は深まるのだろうか?いやこのペースだとその頃は、もう冬ではないのかい?と。そして多分実際そう成る。紅く染まることを忘れたウッカリ葉っぱは、青、緑のままなぜか枯れて、しわくっちゃなのに緑。色あせながら緑という矛盾のまま北風に吹かれて、そのままはた落ちる。

 

 念仏唱えてさようなら。