1.
布団中毒
冷たい空気と布団の中に発生する重力の関係。朝起きてもとても表へ出る気にならず、せんべい布団の隙間から窓を覗いてため息を吐き捨ててから、また布団をかぶり直すそんな日々が続いていた。
この布団はまるでロビンソンクルーソーの暮らした洞窟のようですらあると思った。
そして心に溜まる罪悪感のような澱。
写真を撮りに出たいな/出なきゃなと思いながら、この太陽系最強の重力にあがらうことは到底困難で・・。
それにスマホさえあれば、この魅惑な洞窟内にあってほとんど全ての要件が片付いてしまうのだ。
僕はこの三日間、この洞窟の中にいて銀行振り込みも買い物も、読書も映画鑑賞も音楽鑑賞も・・つまり現代人が求める欲求はほとんど全て(食事と排泄と写真撮影以外)がまかなえてしまっていた。正直恐ろしさすら感じる。しかも布団の傍らには100均で買ったテニスボールが転がっていて、寝たきりによる体のこりはこれでなんとかなってしまうという布団中毒者っぷり。
2
布団中毒者外へ出る。
さて、今日は12月31日大晦日である。大晦日くらいせめて・・なんて愁傷な感受性が働いたのか、はてさて、今日は気まぐれに表へ出て写真を撮ることができた。夜半のうちに雪がいくらか舞ったと見えて、いつもの散歩道は白じんでいた。空は晴れ。
とぼとぼ歩きながらこれはと思う被写体にカメラを向ける。
昨年の今頃はまさか自分がこんな事をしているなんて思いもしなかった。
写真を撮ってるなんて想像もしなかった。
去年の今頃はある資格試験の勉強のために鞄の中に参考書やらを詰め込んで、ネカフェジプシーを繰り返していたというのに。・・まさか世界がこんな風になるなんて、あの時誰が想像したろうか??
そんな事を思いながらシャッターボタンを押した。
木々に冷たい透明がこびりついて、僕のソ連製レンズは冬を描きこむのがうまい。
明日の行き先など、誰にもわかりはしないのだ・・そんなことが身にしみた一年だった。