モノクロームの世界に降りた冬の女王と、ハツカネズミの巣のような集落の物語
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荒涼峰から吹き下ろす冷たい風が、一陣。おおよそ見える限りの景色といった景色を、どうどっどと揺らして通り過ぎました。すると、つい先ほどまでは生き生きとほうぼうを活動していたかに見えた木々や草木も・・ええ、虫や動物すらも・・・つまりこの景色の中に見える限りの「いきもの」と呼ばれる種類のモノたちは、まるでしょんぼりとして、へなへなと力を失ってしまうようでした。
色彩というモノは元来「ひかり」という不思議な力に(そしてその力はすべての人に、分け隔たりなく降り注いでいるものです)由来しているらしいのですが、どうやらこの吹き下ろしの風は、その「ひかり」という不思議な力を弱くしてしまう力があるらしいのです。
はたして。では、色彩が失われるとなぜ「いきもの」は力を失ってしまうのでしょうか?いいえ、そうではありません。色彩は生き物の持つ「せいめいりょく」をわかりやすく見えるようにしているのに過ぎないのです。
問題は。その色彩を見えるようにしている大本の「ひかり」という不思議な力が峰から吹き下ろしてくる一陣の風によって簡単にとっぱらわれてしまうことのようでした。
それについて大昔の「いきもの」は経験的にこう考えたのです。いつもこの季節になると当たり前に吹き下ろす風・・この風はまるで我々「いきもの」の力を奪う原因のようじゃないか・・と。
ねえ、それはむかしむかし、大昔の物語。
2
始まりはある一人の想像力豊かな誰かの言葉だったのかもしれません。
「きっと多分、あの荒涼峰の頂点にはひどく恐ろしい女王がいて、高い高い山の頂上でその眠りから覚めたとき、彼女はいたずらに我々へ向けてひどく冷たい息を吹きかけるに違いない。
だって、あたりの色彩はすべて失われ。後には灰色の世界が凍り付いて固まっている・・そんなの誰かの仕業し違いないじゃないか!!」
いわれてみれば、なるほどそうに違いありません。だって、峰の頂には白く透き通った絹織物のように繊細な雪がこの季節になるといつも吹きすさんでいるじゃないですか。
「あの雪が、あの絹織物の反射のように美しい雪の吹雪こそが・・彼女の身にまとう衣装だ」
タシカニソウダ、ナルホドソウニチガイナイとほとんどすべての「いきもの」は納得して、仕方がなく自分自身の身を守るために深い穴を掘るとか、高い壁を作るとかしてみたのですが、しかしどんなに頑張ってみても、この時期になるとあの峰から風は吹き下ろし世界の色彩を奪い続けていたのです。
峰と峰、山間のこの地は全体まるでそんなようだから、其処に住む人々は全員が巣を大事にするのです。
それはもう、まるで ハツカネズミのように・・・