コトバ 風物 ジッタイ

ゲンショウの海に溺れながら考える世界のいろいろな出来事。または箱庭的な自分のこと。

原初の記憶にさかのぼり、そして飲みすぎて更新が一日遅れた

 

空に朝焼けが、さながら日本絵具のように滲んだ群青色の富士を淡く浮かせて、世界に染み込みますな。大凡、諸々の人にとって一月十六日という日は、途方もなく平凡な一日でありましょうが、あたしにとって少しばっかり特別な日なのであります。

 

 三十七年前丁度キッカリこの日にこの世に生れ落ちたもんで。

 

 しっかし、誕生日と言ってまあ目出度いんだか忌まわしいんだか、よー分かりませんやね。生まれる前の記憶は生憎と、するりと抜けておるもんで、だからあたしは自分が望んで此処に居るのか、それとも望まざるながら此処に居るのか、たまさか望む望まざるなどという所謂意志的なもの、いわんやある種の力の類とは全く関係なしに、ただ虚構無意味虚無的に此処に存在しているのか・・よー分からんのです。残念ながら。

 

 しかし、だからこそ、故に生は戸惑いでもあり、故に生はコーキシンの源でもあるっチューもんでもあります。生きているっチュー事は。

 

 何なんでしょうね。

 

 人間だものでしょうか。

 

 人生なんてあっと言う間だなんて、よー聞きます。小学校の時分でしたかな。正月に親類縁者と一同集っての酒宴で、大人連が上のようなセリフを感慨深げに吐いていたのを思い出します。当時ガキ畜生だったあたしにとって、時間が速いなんて現象は、全く未体験の領域でありましたから。

 

 「なに吐き散らかすかなこのトウヘンボクは。間抜けな事ぬかすねぃ。起きやぁがれ」

 

 等と世間知らずな感想を人知れず心内に浮かべて大人を軽蔑したもんですが、いや実際こうやって年を取って、あの当時の大人連と同年か、幾ばかかと近づいてみると、いや実際人生なんてあっと言う間ですな。

 

 

 しみじみと、三十七年の日々を思います。

 

 

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 三十七年前、あたしゃ信州・・今でいう長野県の茅野市というところに居ましたね。あの辺りは非常に寒い所で。丁度その日もシンとした、音も消す雪深い夜で御座いました。暗闇にただ重いボタ雪が重なっては、また白く染まり重なります。しかし景色を見ると総体それは暗いのであります。月明りもない。ただ向こうの丘が僅かに浮かぶ。

 

 寒い地方の風呂は伝統的に熱いと聞きますが、それは多聞に漏れずこの信州という土地にしてもどうやらそうらしく。例えば、知人の家にお邪魔して、向こうの客あしらいで一番風呂と招かれて。ともなると向こう様は善意の内、熱い風呂が一番の馳走だと申しますから煮えるような湯に飛び込めと・・勧めます。いえ、入れたもんじゃありません。煮えるような湯に指先を入れれば、さながら石川五右衛門の気分。こちらも一番風呂を戴いてという認識がある。後ろに控える家族の事を考えると、湯を埋める事も出来ずに、桶にこう溜めまして、行水のごとく浴びて、「ああ良いお湯でした。ご馳走様です」と出ましたけれども。

 だから、そういう地域柄ですから、恐らく産婆さんが気を利かせてくれたんでしょうな。初めての産湯は、其れはそれは熱かったですな。こう取り上げられて、湯に落とされて、あたしゃ思わず「アウチッ」と叫んで、漫画的に湯船から飛び出しましてね。そいで床で滑って頭をぶつけて・・まあ、そのおかげ様でこんなすってんてんな人格が出来たとも一説には聞くところではありますが。

 

 しかし湯という物は良いもんで御座いますな。やがて丁度いい塩梅に温んだ湯につかりながら、文字通り生まれて初めて日の光を感じました。朝焼けで御座いましょう。光。窓に張り付いた重雪の欠片がプリズムの様に綺麗で。乱反射した光を目で追い集めながら、ストーブの排気音を聞きました。それから、後ろのベッドに見ず知らずの大女が寝息を立てていて・・これが後にアタシの母親であると知ることになるのですが、その当時はまさか知る由もなくて。いえ、というか、母親はおろか、そもそもがこの時あたしはまだあたしとして個人を獲得/認識していなかったのですな。だからその時は上にざっと上げたいい湯だのプリズムだのストーブだの寝息だのという諸々の現象は、そもそも減少として認識していなくて、実にアメーバのように曖昧で・・身体/境界の伴わない速水もこみちクッキングに於けるオリーブオイルが如く模糊模糊しちょる故に・・身体という境界線の伴わない世界と自己の相対性の失われた梵我一如の如き・・・まあ、なんつーかふらふらしてたっチューこっちゃ・・というか、そろそろ嘘八百並べるのも苦しくなってきた。まあ、生まれた時の記憶なんてありませんやね。昨日の夕飯何食べたかすら定かじゃない始末ですから。

 

 まま、今年も上の様に嘘八百日記を書き連ね、皆々様のお目をせいぜい汚して、勝手気まま面白おかしくあたしゃ酒に酔い狂って、平々凡々と仕事もして、なんかいらないことを考えたり、考えなかったりして、今年一年を無事に過ごしてまた来年も全く同じ内容の記事をコピー&ペーストで更新してってやりたいと思う所在で御座いますので、どうかよろしくご指導度鞭撻のほど、お願いいたしますう。

 

てな塩梅でね。

 

ね?