入院顛末記②
さあ、さてそれからは。
って。
先だっての入院顛末記の続きで御座います。
1
まああたしゃ日頃から、こう鈍感で御座いましてな。その日もふくらはぎが欠けていて、それで一向に痛みを覚えないので御座いますよ。しっかし、痛みは無いながら右と左を比べてみてもやはり、どう見比べても右が足りないなと。ええ確実に欠けている。そいで座っている下は血染めの布団と相成りますでしょ。まあこいつぁただ事ではないなと、流石のあたしでも気が付くわけで御座いまして、部屋を出て、ちょうど両親が横並びでテレビを見ておりましたから、ズボンをまくり上げまして、「足が欠けた」と見せると、母親の顔の血の気がさっと引きまして、すぐに病院へと近くの総合病院へ電話を掛けました。
時刻は十四時を回って、当然外来の受付はもう終わっております。急患でと聞くと幸い形成外科の先生が当直でいると。「直ぐに参ります」と電話を切って、あたしゃ別に痛みもないし、普通にすたすたと歩いていたもんだから、自分で車を運転して行こうかと思ったのですが、母曰くそんな足でまともに運転なんぞ出来ようはずがないと、
その上さらに事故なんぞ起こそうものなら目も当てられんと、そう主張して曲げないものですから、ではお願いしますと助手席へ乗りました。
あたしゃね、正直この段階ではこんなにも大げさな事になるとは、ゆめゆめ、思いもしませんでしたな。ちょいと縫うだろうなとは思いました。ちょいと縫って繕って、でっかい絆創膏かなんかを張って、包帯をグルグル巻きにしてそいで無罪放免、今日は休みだから一日寝て、明日も仕事は夜勤だからまあ正味一日半。それだけ休めれば何とか仕事にはなるだろうと、生来の鈍感さと、生来の勤勉さ故の・・あいや勤勉さってことは無いか。面倒くさいんですな。仕事に穴をあけてイチイチ断りだの謝りだのと、そういった社会的儀式諸々が。だから仕事はなるたけ休みたくない。休んだらそりゃ休んだ時は楽だけど、後で後がつっかえて、いちいち面倒じゃぁあーりませんか。
2
病院に着いて、車から降りて変わらず、すたすたと歩きます。人のいない受付で呼び鈴を鳴らして、出てきた看護師に「あのー足を怪我してしまったんですけど」と、いつもの口調いつものテンションでのんべんと語ると、「あ、先ほどの電話の・・・」と、それで合点理解が速く、「向こうの角を曲がったところが救急外来ですので・・」と案内され言われた部屋の前でしばらく待ったのですが、誰も出てくる気配がない。ので、ややあってその部屋のドアをノックして、恐る恐る扉をあけまして、「あのー」と顔を覗き込むと、出てきたのは肉(しし)付の良い五十を僅かに越えたであろう熟女で御座いまして、いや若い時分は男の一人や二人を惑わしても、それが到底罪とはならんかったであろうかという・・・二重の目にくっきりと鼻筋の整った・・・そんな面影を残した看護師で。
あたしはそんな女の肉(しし)を見ながら、上同じような口上を再度。
「あのー、足を怪我してしまったんですけど」
あたしのノリというかテンションというか、まあ常に熱の欠けた物言いが故でありましょうか、別になんてこっちゃないといった印象を与えたか、くだん熟女は「あらまあ」みたいなノリで「さあ、どこがいけないのさ」みたいな感じで、あたしを待合室の椅子に座らせてズボンを捲くれと指図します。
患部を見せろと。
そいでまあ、あたしも言われるがまま、熟女の望むがまま。ズボンの裾をまくりあげて、患部を見せますってーと。
さっと、熟女の顔が変わりましたな。熟女が看護師になった瞬間であります。
待合室から診察室へ。このベッドへすぐに横になれと言われて、言われるがまま横になりました。