さてさて、続き続きっ、と。
これの続きです。
ブログ更新の内容が飛び飛びになったり、前回は話しにまったく進展がなかったので、若干おさらいします。
殿様が入った煮売り屋にて、隣の男が食べていた料理が、じつに旨そうな匂い。で「これはなんだ」と聞くと、丁稚小僧が「にゃあです」と答える。にゃあってのはねぎまの事。江戸っ子だから早口でつづめて言うので「にゃあ」と聞こえる。「ではそのにゃあとやらを持ってまいれ」と命じ、そこからねぎまの説明と相成ったわけですが・・ねぎまとは、葱と鮪をお鍋で煮た要は鍋物。それから散々解説を加えたのですが、よろしいか?
では本文。
「へい、にゃあおまちー」
と、小僧が持ってきたねぎまを前に、殿様は
「うむ、これじゃ。先ほどの珍なる香りはこれであった」
と、葱を口に入れて驚いた。
こう言った店は、一々手間隙なんぞかけません。鮪も骨付きのところや血合いなんかをかまわず入れる。葱だって青いところも白いところも一緒くたにぶつ切りにして、鍋に打ち込んでぐらぐらと煮るてぇ寸法。
熱くなった葱の芯のところが膨張して、勢い噛んだもんだから口の中で、ばちんと弾ける。
「なんぞこの白いものは?実に珍妙摩訶不思議かな。・・鉄砲仕掛けになっておるぞ。口中で、なにやら・・熱いものを打ち出した・・。」
「へへへ・・そりゃあ葱の芯が飛び出したんで」
「左様であるか・・これササを持て」
「笹っ葉なんてございませんよ」
「一々分からぬやつじゃな。酒を持てと」
「そんならそうと、早く言ってくださいよ。・・・酒はダリとサブロクが御座います」
「なんじゃ?そのダリだのサブロクだのと申すものは」
「へえ、ダリは四十文、サブロクは三十六文。たった四文の違いですが、ダリは灘の生一本。上等で御座います。」
「左様であるか。しからばダリを持て」
「えーダリ一升」
・・・・・・。
一升って。
現代、あたし等が飲み屋に行ってお酒ちょうだいと言って、一升も持ってこられたら。
「いや、こんなに頼んでねーから」
・・って。まあ、当然腹を立てますわな。ツイッターなんぞに詐欺だ押し売りだと写真つきでつぶやいて、それが飛び火一夜のうちに炎上。タイムランが猛火の末、灰燼瓦礫と化す、と。・・まあ、そんな塩梅でしょうが。
普通に頼んで、持ってこられるのは一合か二合か。洒落た所でグラスとか・・まあ普通メニューに書いてありますわな。当時の人は、店員さんが「一升」と言って、なんとも思わなかったのか?
恐らく、思わなかったんじゃないかと思います。
別に当時の人がやたら酒飲みであったとか、はたまた酒の値段がむちゃくちゃ安かったとか、そういうわけじゃない。「一升」てのは景気づけで、ザックバランな時代ですから、なんでも景気よくっちゃあ良いだろうと、一合のことを一升と呼んだ。今と変わらず、基本、一合です。
では酒の値段は・・と申しますと、先に「へえ、ダリは四十文、サブロクは三十六文」と言うくだりが見られましたが、「江戸時代の価格価値と物価表」なる面白いページが御座いまして、そこに一文が大体16.5円であったと、そう記載されております。あたしらが普通に暮らしている限りは、そう分からないものですが、金の価値なんてものは、常日頃変動行くもので、無論これが正確な定規にはならんだろうとは申し上げるまでも無い。のですが、が、しかし、まあひとつの目安として、ご参考のほどを。
ダリが四十文と言うことは、算数のおさらい、お勉強。
・・・ですな。
40×16・3=660
ちょっと、安いかな。今もし仮にこうなったら、家庭のお父さんが、喜んで一杯多く飲める程度の価格変動。
じゃあさあ、そもそもその「ダリ」とか「サブロク」とは何なんだよ?というアータ。あたしも「アル中ハイマー亡備録」なんぞ因果な名前を看板にしょって、こう書いておりますから、酒のことなら任せときんしゃいと、勉強いたしまして、調べましたよ。
酒処といって現在、思い浮かべるのは何処でしょうか?やっぱり米を原料にしているのだから、米が旨い場所と、それから、灘ってーのはよく聞くな。と、
灘ってのは現在の兵庫県の灘地方のことでありんす。
って、そのまんま。
この地方は昔から酒造りが盛んで、今の日本酒の原型・・いわゆる清酒ですな。その一等高い技術を持っていたのが、当時この地方の酒造り屋だったわけです。
えー、当時は天皇様がいらっしゃる京都が日本で一等高い、高貴な、上等な場所だったわけです。歴史も長いし、昔からずっと流行も廃りもあの辺りが生んだ。それで、その高貴なエネルギーが拡散しまして、京都近辺大阪ですとか、旧国名の摂津なんかは、まま、(一部例外はありますけど)高貴な内に数えられたと、翻って江戸というのは・・「まあ、面白いかもしれないけど、やっぱり趣とか拡張が無いよね」みたいな位置づけで、下に見られていた。
故に京都大阪ですとか関西あたりを、今でもその名残で「上方」と申しますな。上方漫才だとか。
上方から下手へ下るものを、・・・・酒ですとか向こうの名産品が江戸にやってくると、それを「下りもの」と呼んだ。
つまり、ダリです。ダリってのは下りのダリなんです。
では、サブロクとは?てえ話になります。
す。
まあ、簡単な話しで、名称はつまり三十六文だからサブロクと。
なぜ、灘の生一本に対して、サブロクは安く下に見られていたのでしょうか?
という所からは、また次回に書きたいと思います。